本件は、司法書士(司法書士法人新宿事務所(「新宿事務所」))が受任した過払金返還請求案件について、その引き直し計算の結果、司法書士の訴訟代理権の法定上限である訴額140万円を超えることが判明したために、弁護士法人(弁護士法人べリーベスト法律事務所「ベリーベスト」)がこれを引き継ぎ、過払金の計算資料等の引渡しを受けるとともに、(法令上司法書士の業務として認められている)訴状作成等を新宿事務所に委託し、これらの対価として19万8000円を支払ったことが、①顧客の紹介の対価(弁護士職務基本規程13条1項)の支払いに該当し、②司法書士との連携がいわゆる非弁提携(弁護士法27条)にあたるとして、ベリーベスト及びその代表者2名が東京弁護士会から業務停止処分を受けた事案である(時系列は末尾)。なお、同様の事案について日本司法書士会連合会(「日司連」)は上記支払いについて紹介料には当たらないと判断しており、新宿事務所は懲戒処分を受けていない。
以下で説明する前に、ベリーベストがなぜこの懲戒処分を上告までして争っているのかを簡単に説明する。
① 事案の円滑な処理のために支払われた裁判資料作成等の対価を支払ったのであって、紹介の対価は一切支払っていないのに、「紹介」の「対価」という認定が強引に行われたこと(→第5(3))。
② 司法書士法改正で司法書士が140万円以内の簡裁訴訟代理権を得た以上、弁護士との連携について(処分基準ないし)ガイドラインを策定すべき立場にあった日弁連及び弁護士会がこれを拒否しつづけ(→第3(2))、ベリーベストを処分する際に初めて「ワンセット理論」(→第5(3))というルールを作りあげて上記①の「対価」認定をしたこと。これは行為時に存在しないいわゆる事後法による処罰と同じで許されないこと。
③ 被害者が存在せず、士業連携によるスムーズな事案処理は依頼者の利益になっているにもかかわらず、弁護士が司法書士に職域を奪われないために行われた大儀なき処分であること。(詳しくはこちら)
④ 本件は、弁護士法人アディーレ法律事務所(「アディーレ」)の指示を受けた産業スパイがベリーベストに入り込んで申し立てた違法な懲戒処分であるにもかかわらず、これを利用したこと(アディーレの産業スパイ行為についてはその後東弁の綱紀委員会が認めている→詳しくはこちら)。
⑤ 司法書士はいわゆる三百代言(事件屋)ではなく、140万円までの訴訟代理権及びすべての訴訟に関する訴訟書面作成が法令上認められた専門家であり、士業連携は非弁提携ではないのに非弁提携をしたとして処分されたこと(詳しくはこちら)。
⑥ 本件で東京弁護士会のとったイレギュラーな手続きは、公正な懲戒処分のために必要とされる綱紀委員会の独立性を侵害するもので違法であること(詳しくはこちら)。
⑦ 訴訟に先立ち日弁連の審査請求が強制前置とされ、しかもこれが裁判所の一審に代置する手続きとされて、訴訟は高裁からしか争えない仕組みであるにもかかわらず、日弁連の審査請求は一審の代替はおろか一般の審査請求にもはるかに劣る前近代的な糾問主義的手続であること。審査請求は対審構造ですらなく、審査請求人が処分庁に質問できないこと(→第6(2))。
⑧ 上記のとおり、普通であれば地裁行政専門部の審理判決を受けることができるはずのところ、これを省略するとした弁護士法は、日弁連の審査請求手続が上記のとおり人権無視の手続きである以上、裁判を受ける権利(憲法32条)を侵害すること。
⑨ 東京高裁は「ワンセット理論」(②参照)を回避しつつも日弁連と同様の結論を導くため、著しく非常識で不合理な事実認定をしたこと。具体的には、過払金の引き直し計算、訴状・証拠説明書など裁判所に提出される書類作成等の新宿事務所の行った作業は専門性のない機械的な作業であって対価性はないから、ベリーベストから新宿事務所に支払われた上記の対価の19万8000円は「紹介の対価」であるとしたこと(→第7(2))。
⑩ 東京高裁は、上記のような強引な事実認定をしたうえ、東京地裁の手続き省略についての主張(→第7(1))、業務の停止であるにも拘らず顧問契約を含むすべての契約が強制的に解除させられるという弁護士会の業務停止処分(→第5(2))の違法についての主張などの重要な主張を、あたかも存在しないものかのように判決文の「当事者の主張」から排除し、判決文しか見ない者には判決の問題がわからないようにしたこと。
そもそも東京弁護士会はなぜ事後法である「ワンセット理論」を作出してまで処分を行ったのであろうか。その原因は、弁護士と司法書士の職域争いであると考えられるので、以下で説明する。
(1)2002(平成14)年司法書士法改正により司法書士にも簡裁代理権が付与される
2002(平成14)年司法書士法改正により司法書士に簡裁代理権が認められてから、日司連は日弁連に対し、司法書士から弁護士への事件の引継ぎ等に関するガイドラインの制定を求めてきた。
(2)日弁連が日司連のガイドライン策定の協議を拒否し続けて現在に至る
しかし、日弁連は、当初は判断基準に争いがあるとしてガイドラインの作成はできないと主張していた。
その後、判断基準について最高裁判決 が出されたため、日司連は再度ガイドラインの策定を日弁連に持ち掛けたものの、日弁連は、法曹人口の増員が実現し、司法書士の簡裁代理権は返上されるべきとの考えのもと、ガイドライン策定を敢えて拒絶した。結果としてガイドライン策定は法改正から20年近く先延ばしされている。
(3)19万8000円の対価決定の根拠(本人訴訟支援と同額)
弁護士業界の職域を確保するために前向きな協議に応じず、かといって現場には何らの解釈も示さず、突然ベリーベストらに対して懲戒処分を行い、司法書士との連携にリスクがあると「見せしめ」にして行われたのが本件懲戒処分である。
日弁連及び弁護士会が司法書士の簡裁代理権に不満があるのであれば、それは本来、国会に働きかけて法改正をさせ、司法書士の簡裁代理権の条文を削除させるのが正当な筋道である。
(4)依頼者の利益を無視して職域確保優先
そもそも、円滑な士業連携が妨害されれば、依頼者は140万円超えが判明したら改めて弁護士を探さなければならない。しかも新たに選任された弁護士は司法書士が聞き取った内容と全く同じことを一から聞くところからスタートすることになり、二度手間になるだけでなく、消滅時効のリスクもあり、依頼者にとっては不利益でしかない。
(1)新宿事務所に対する消費者金融による代理権外しの相談
2014年、ベリーベストは、新宿事務所から、過払金請求事件が消費者金融によってすべて控訴され、代理権外しをされているため、事件を承継してくれる弁護士を探していると相談を受けた。緊急を要する事態のため、ベリーベストが事件を承継したところ、消費者金融による控訴は止まった。
その後、140万円超え案件の対応もお願いできないかと打診された。
新宿事務所によれば、過払案件を引き継ぐ弁護士がおらず滞留しており、このままでは消滅時効にかかってしまうものもあるとのことであったため、引き継ぐことを決定した。(詳しくはこちら)
ベリーベストは、依頼者の利益最大化のために、原則として元利金満額を回収する方針であるところ、任意交渉では、貸金業者は遅延利息を支払ってこないため、自ずと全件について訴訟提起することとなった。
(2)案件が多いため法令で認められた範囲内で作業を分担
当初は自ら訴状を作成していたが、代理権超え案件が想定以上のペースで引き継がれることが判明した。新宿事務所から、訴状や証拠資料、証拠説明書など裁判関係資料の作成まで対応できるとの提案があったため(詳しくはこちら)、ベリーベストは聞き取り内容の再確認や書面のチェック、出廷対応を行うこととし、これらの案件への対応が可能となった。依頼者にとっても迅速な訴訟提起が可能となり、過払金の早期回収を実現できるメリットがあった。これらはすべて法令の範囲内で認められている行為である。なお、依頼者はこれに際して支払いを求められるわけではなく、また、成功報酬などもすべて新宿事務所と同じ金額で契約することとしていたから、依頼者にとっては金銭的な負担が増えることは全くなかった。
(3)19万8000円の対価決定の根拠(本人訴訟支援と同額)
新宿事務所は、過去に、弁護士への紹介を希望せず、かつ、それまでの業務で作成等した関係資料の提供と裁判書類作成を希望する依頼者に対しては、19万8000円でこれらを引き渡す本人訴訟支援を行っていた。これは上記⑵のとおり法令の範囲内で認められている行為である。
新宿事務所が連携する他の弁護士法人も19万8000円を支払っているということであったため、ベリーベストも、上記と同内容の依頼を新宿事務所に依頼するに際し、同様に19万8000円の対価を支払うこととした。これについて、依頼者に負担を求めておらず、依頼者に不利益はない。
この対価について、東京弁護士会及び日弁連は、依頼者の紹介と業務成果物の引き渡しはワンセットである以上、業務成果物についての対価には必然的に紹介料が含まれるという理由で、19万8000円が紹介の対価を含むものとした。
(1)アディーレの産業スパイが事務員として入り込み懲戒請求
アディーレは、雇用する事務職員に高額の報酬を支払う約束をし、外形上退職させてベリーベストの事務員として応募させ、ベリーベストにスパイとして潜入させた。スパイは、短期間の勤務中にベリーベストの顧客情報及び新宿事務所からの請求書等の資料を入手したうえで、東京弁護士会に懲戒請求を行った。
(2)6か月の業務停止処分に加え、顧問契約を含むすべての契約の強制解除
弁護士の懲戒処分は、法律に定められたものしか認められず(弁護士法57条1項、2項)、弁護士法57条1項、2項では、「戒告、業務停止、退会命令、除名」という4種の懲戒処分が存在するのみである。これらのうち、業務停止処分とは、講学上の行政行為であり、不作為の義務を課すものであることに争いはない。ところが、日弁連および弁護士会は、1か月を超える業務停止処分を受けた弁護士は、委任契約を解除しなければならず、顧問契約も全て解除しなければならないと通告(→こちら)し、事務所まで立ち入って現実に解除が履行されたかの確認までするのである。一定期間の不作為義務をはるかに超える弁護士の顧客を根こそぎ奪うという著しい不利益が、何らの法の根拠もなく強制されているのである。
(3)「紹介の対価」の認定に使われたワンセット理論の内容と問題点
(ワンセット理論とは)
東京弁護士会が議決書において、訴状等作成業務の対価を「紹介」の「対価」と判断するために考え出した「ワンセット」理論は、次のようなものである。(ⅰ)140万円超過払事件の成果物の引継ぎは、必然的に、依頼者の紹介を随伴する。
(ⅱ)成果物の引継ぎと紹介が切り離せない以上、事件に関して前任者が何らかの作業を行って、後任者が前任者に対してその対価を支払うことは、いかなる趣旨・名目であるかを問わず、紹介料としての意味を包含する。
(ワンセット理論の問題点)
前任者の作業に対する対価が支払われる場合、その対価の多寡にかかわらず金銭の支払いがある限りは必ず紹介料とみなされるという特異な解釈は、「紹介」の「対価」との規制文言からは通常一般人の認識では予見できない。ワンセット理論は本件までに示されたことのない新たな考え方であり、事後法と同じである。(1)審査請求をした理由
本来は行政専門部のある東京地裁に審理判決をさせるべきところ、弁護士法は、これに代わる制度として、日弁連の審査請求の裁決を訴訟前に経ることを義務づけている(裁決前置)。
しかも、裁決後に地裁に提訴することは許されず、いきなり高裁に訴訟を提起しなければならないこととされている(弁護士法61条1項)。これには、人権擁護団体であり法律専門家からなる日弁連であれば、地裁よりも充実した審理判決がなされ、公正な裁決が出されるという前提がある。
⑵ 日弁連の審査請求手続は権利救済手続きではない
(1)弁護士の懲戒処分は一審が省略されてしまい高裁からしか争えない
弁護士法は、弁護士に対する懲戒処分についての不服申立方法として、まず審査請求から行うという審査請求前置を義務付けたうえで、裁決主義、つまり処分そのものではなく裁決の取消訴訟でこれを争わせることとしている。しかも、これ加えて、裁決の取消訴訟について東京高等裁判所を一審裁判所とすることで、第一審手続を省略することとしている(法第61条第1項及び第2項 56)。
地裁(行政専門部)による一審手続きが省略される結果、日弁連の審査請求手続は地裁審理に相当する手続として位置付けられている。これは弁護士会が法律専門家からなる人権擁護団体であり、地裁審理を行わずともはるかに手厚く公平な手続で人権保障と適正手続が図られることが担保される(はずである)という前提があるからである。すなわち、三審制に例外を設けるものである以上、日弁連の審査請求は地裁相当以上の公正中立で手厚い救済手続がとられる必要がある。
ところが現実には、日弁連の審査手続は、先に述べたとおり旧態依然とした人権軽視の著しく粗末な手続きであって、公正な権利救済制度である行政不服審査法に著しく劣る制度であるから(→第6(2))、まして地裁省略に値する手続とはおよそ認められない。
したがって、このような弁護士法の規定そのものが、憲法31条の適正手続、憲法32条の裁判を受ける権利を侵害するものである。ベリーベストは、かかる制度の不備を東京高裁が理解したうえで、公正中立な第三者として、誠実に判決を書くことを切望したが、その望みはかなわなかった。
(2)東京高裁の判断の概要
(3)東京高裁の判断の問題点―対価性判断に関して
(4)東京高裁が判決に書かなかったベリーベスト側の主張
東京高裁は、以下のような重要な主張をあたかも存在しなかったかのように扱うことで、判決の問題点を第三者から看取困難なものとした。
① 司法書士法改正による司法書士の訴訟代理権の創設から20年近くの長期にわたり、日弁連および弁護士会が、ガイドラインの策定を怠ってきたこと。このためにいかなる行為が許されるのかが不明確な状態であったこと。
② 本件処分の根拠条文は、刑事罰の適用もある構成要件であるところ、罪刑法定主義の観点からも明確を欠くこと。
③ ベリーベストは、新宿事務所と業務委託契約を結ぶにあたり、自分たちで適法性を調査しただけではなく、念のため外部の信頼できる弁護士にも意見を求めたこと。
④ 司法書士報酬、弁護士報酬ともに、司法制度改革を受け、独占禁止法上の問題があるとして報酬規定が撤廃されたこと。このため、当事者間の合意は、公序良俗違反(民法第90条)等の意思表示の無効取消原因がない限り有効であること。
⑤ 日弁連は人権擁護団体であり法律の専門家の団体であるからこそ弁護士会が一審省略としているにもかかわらず、処分基準も策定されず、審査請求は対審構造ですらなく、口頭審査に処分庁は出席不要とされ、処分庁に対する質問すらも認められなかったこと。(→第6(2))
⑥ 消費者金融による嫌がらせ控訴により司法書士の代理権が外され、また、140万円を超える大量の過払い金の消滅時効が迫る中で、新宿事務所に請われ、依頼者を保護するために事案を引き受けるに至った経緯があったこと(→第4(1))
⑦ 日弁連および弁護士会の業務停止処分は、単に一定期間の不作為義務を課すものではなく、すべての委託契約および顧問契約の解除を名宛て人に強制し、立ち入り検査まで行うものであること。(→第5(2))
⑧ 上記のような契約解除の強制は弁護士法で認められていないものであり、業務停止処分の概念を超えるものであるから違法であり、罪刑法定主義にも反すること。(→第5(2))
⑨ 現状のマンパワーで効率的かつ効果的に事案を処理するためには、新宿事務所に訴訟関係書類を作成してもらうほうが依頼者の利益になること。それが司法書士法で認められている行為であること。新宿事務所は共同訴訟形式による訴状にも対応しており、迅速な処理を可能にしたこと。(→第4(2))
⑩ 本件は弁護士団体が自分たちの職域を守るために行った処分であって、依頼者に被害は一切なく、苦情もないこと。
(1)上告理由(憲法違反)(要旨)
① 原判決は、司法制度改革審議会意見書が「弁護士と隣接法律専門職種などによる協働を積極的に推進するための方策を講じるべきである」と記載しているのに反し、本件士業協働を禁止することも、本件各規定の処罰対象に含まれると判断した。この解釈を前提とすると、本件各規定が本件士業協働を禁止する部分が憲法22条1項に違反し、原処分及び本件懲戒処分も処分違憲であるから、憲法22条1項に違反しないとした原判決には誤りがある。
② 原判決は、司法制度改革審議会意見書が、隣接法律専門職との具体的な関与の弁護士法72条の位置づけや同条の規制内容を明確化すべきことを求めていたのに反し、弁護士法の規制対象が不明確であるにもかかわらず、本件士業協働が本件各規定に該当すると判断したが、通常の判断能力を有する一般人の理解では到底できず、原判決には憲法31条に関する解釈の誤りがある。
③ 日弁連による裁決手続も、原審による審理も、第一審省略の代替手段足り得ないことから、第一審省略を定める弁護士法61条1項は、憲法31条及び憲法32条に違反する。そのため、上告人らの憲法31条、32条違反の主張を排斥した原判決の判断には、憲法32条及び31条の解釈の誤りがある。
④ 原判決は、東京弁護士会が、上告人らに対し、原処分がなされたことのみを根拠に、すべての委任契約及び顧問契約の解除を求めたことについて、法律上の根拠を欠く。この点に関する原判決の判断は、国会を「唯一の立法機関」と定める憲法41条に反するばかりでなく、憲法31条が適正手続として保障する法律の留保の原則、遡及処罰の禁止を定める憲法39条、比例原則を保障した憲法13条等にも違反するから、各条項に関する解釈の誤りもある。
(2)上告理由(手続違法)(要旨)
① 弁護士が行った非弁提携行為については2年以上の拘禁刑又は300万円以下の罰金刑で処断されるが、法72条、27条を含む法違反については、懲戒事由にもなるため、懲戒手続と刑事手続との関係が問題になる。この点、非弁提携行為と認定され懲戒処分を受ければ、対象弁護士は刑事処分に等しい重大なダメージを受けるから、懲戒手続で非弁提携行為と認定するについては、認定に至る手続は少なくとも憲法で定められたレベルでの適正手続の保障が必要である。
② しかるに、本件において原弁護士会は、法すらも無視し、懲戒手続外の全く適正手続保障のない委員会調査を経た弁護士会立件(憲法31条、32条、35条1項、38条1項違反)により、構成要件該当行為に関する適正な認定手続も踏まず(憲法37条1項違反)、上告人らの非弁提携行為を認定し、原判決は原弁護士会の適正手続保障抜きの手続をすべて正当として是認した。
③ 行政手続も含めたあらゆる手続に適正手続の保障を行きわたらせることは法治国家の理念である。しかるところ、原判決は刑事手続にも準ずべき本件懲戒手続の過程においても適正手続の保障の検討が必要であることについて一顧だにせず、原弁護士会、原弁護士会の綱紀委員会、懲戒委員会の措置を次々と是認した。
(3)上告受理申立ての要旨(手続以外)
① 申立人らは、本件懲戒処分の幹を成しているワンセット理論に対して、従来から確立していた周旋行為又は紹介行為との対価関係の存在を必要とする見解に反していて、ワンセット理論を採用することは誤りであり、19万8000円は申立人法人が新宿事務所からそれまでに行った業務の成果物の引継ぎを受け、また、新宿事務所に裁判書類作成業務を委託する対価として相当であるから、本件支払行為は紹介料の支払に該当するものではないと詳細に反論してきた。
② しかしながら、原判決は、申立人法人が新宿事務所から依頼者とその借入先に関する情報を取得していることに着目し、この情報を取得することにより、申立人法人が過払金返還請求を行って19万8000円を大きく上回る弁護士報酬を得る機会が得られるものであるから、「新宿事務所からこの情報を取得することは、原告法人において対価を支払う対象として中核を成す本質的部分であるといえる。」(原判決29頁)と断じた。
③ その上で、原判決は、「依頼者とその借入先に関する情報の提供は、依頼者と事件の紹介をすることにほかならない。そうすると、本件業務委託契約に基づき支払われる1件当たり19万8000円の業務委託料は、依頼者の紹介を受けたことに対する対価の性質を有するといわざるを得ない。」(原判決29頁)として、本件支払行為が紹介料の支払に該当し、法27条及び規程13条1項に違反すると正面から結論付けて、申立人らの請求を棄却した。
A)原判決は、前記のとおり、本件支払行為に関し、相手方も主張していない「過払金返還請求をしようとする依頼者とその借入先に関する情報の提供は本件業務委託契約における支払と対価関係にあるものとして本質的な部分」であると認定して(「本件認定」)、本件支払行為が紹介料の支払に該当するとしたが、これは明らかに裁判所として矩を踰えた「相手方への肩入れ判決」である。 本件認定は、申立人らにとって不意打ちに他ならず、弁論主義に違反している。
B)原判決は、申立人らの主張内容を取り合わずに、本件支払行為が紹介料の支払に該当するとした点で審理不尽の違法がある。
C)原判決は、申立人らの主張を歪め、かつ、証拠にも反して著しく不合理な本件認定をしており、審理不尽、経験則違反(民事訴訟法247条)の違法がある。
D)原判決は司法書士が法72条の「非弁護士」に該当するとしたが、申立本件で新宿事務所は司法書士法に照らして適法と認められる行為をして申立人法人と協働していたものであるから「非弁護士」には該当せず、この点に法72条の解釈に関する重大な誤りがある。
E)原判決は、申立人らが主張していた、仮に本件支払行為が紹介料の支払に該当するとしても、ルールが不明確な状況の下、申立人らとして本件支払行為の適法性を慎重に確認して行動した結果を懲戒相当と判断してはならないとの主張を判断しておらず、これには民事訴訟法338条1項9号に定める判断遺脱の違法がある。
F)原判決は、申立人らが主張していた、原弁護士会が業務停止処分として委任契約の解除を強制することは法令の根拠がなく、また、過大な制裁に当たるから比例原則違反であるとの主張を判断しておらず、これには民事訴訟法338条1項9号に定める判断遺脱の違法がある。
(4)上告受理申立ての要旨(手続違法)(要旨)
(ア)弁護士法(以下「法」という。)58条1項に定められた懲戒申立ては、懲戒権発動の端緒にすぎないので違法目的実現のためであっても許容されるか。
原判決はこれを肯定する。しかしながら、広く国民に認められた懲戒請求は、弁護士自治を実現するための公益的権能として制定されたものである。にもかかわらず、最初から競合する弁護士法人などを潰す目的で自己の職員に1000万円の退職金を支払って競合法人に就職させ、機密を盗取してもらってこの資料をもとに懲戒請求を行うことは、公益的権能自体の否定である。申立ては端緒にすぎないのであるから目的のためにはいかなる手続も許されると、堂々と法58条1項を解釈することは懲戒制度を否定する違法行為の奨励であり明らかに誤っている。
(イ) 弁護士会は懲戒機関以外の委員会などの調査結果に基づく会立件を行うことができないこと
① 原判決は、原弁護士会が非弁会規に基づく調査によって申立人らに対する会立件をしたことについてその効力を認めている。
② しかしながら、法58条2項は懲戒事由があると思料するときは綱紀委員会に事案の調査をさせなければならないと定めている。その理由は、そうしないと弁護士懲戒について、これを独立の機関に行わしめて弁護士会からの干渉を排除しようとした趣旨に反し、弁護士会に二通りの懲戒コースを認める結果となるからである。
③ 会立件は、法31条1項に定められた弁護士会の会員に対する指導、監督権を根拠に弁護士会に認められたものである。従って、会立件は弁護士会が会立件を行う必要性があることを前提としているので、懲戒機関は会立件があった場合、その必要性を考慮せざるをえない。その結果、既に法58条1項の請求事件と同一事案について会立件がなされれば請求事案はそれだけで内容の真実性が補強される結果になる。明らかに1項請求に対する弁護士会の干渉である。本件ではこれが行われた。
④ 原判決は本件においてかかる会立件を違法とは認定しなかった。明らかに法58条2項、法70条の7の解釈を誤ったものである。