ベリーベスト事件は、残念ながら、最高裁が三行半判決を言い渡して終了しました。日本の司法に失望しました。本件に関する私の感想を述べます。
本件は弁護士会による「ベリーベストを処分してやろう」という結論ありきの極めて政治色の強い処分であり、弁護士会及び裁判所での審理において一貫して、正しい法解釈に基づく反論が一切通用しませんでした。弁護士会も裁判所も我々の法的主張をことごとく無視して、ろくな理由付けもなくベリーベストを処分しました。司法が全く機能していないと言わざるを得ません。こんなことが刑事裁判でも発生して冤罪が生まれているとすれば本当に恐ろしいことです。
事案はこうです。ベリーベストは、140万円を超える過払い案件を司法書士から引き継ぐにあたり、司法書士が作成した引き直し計算データを引き継ぎ、また訴状一式の納品を受け、その司法書士報酬を支払いました。これは司法書士の業務に対する対価であり、案件紹介を受けたことに対する対価ではありません。しかし、弁護士会は条解弁護士法の解説と異なる解釈をして、「案件の紹介に随伴して支払われた金員は紹介料の趣旨を含む」という、これまでになかった新しい解釈(いわゆるワンセット理論→案件の紹介と金員の支払いがワンセットという意味)を編み出して、ベリーベストが支払った司法書士報酬が案件の紹介料を含むと認定し、ベリーベストを処分しました。
しかし、条解弁護士法には、紹介料とはあくまで紹介と対価関係を有するものに限定されると解説されており、この対価関係を必要としない時には処罰範囲が不当に拡大してしまって妥当でない旨、はっきり記載されています。
弁護士会は処罰範囲を不当に拡大してベリーベストを処分したのであり、言ってること(条解弁護士法)とやっていること(ワンセット理論による処分)が違います。従来の解釈を覆したということなら、後出しジャンケンであり、法の不遡及という基本原則に反します。また、前例がなくまだ解釈が固まっていない論点ならば、一方の解釈をした者は、それが弁護士会の解釈と異なっていたとしても「品位を失うべき非行」と評価されることはありません。下級審の裁判官の判断が上級審でひっくり返ったとしても、下級審の裁判官が非行をしたことにならないことからも明らかです。
そもそも弁護士会の解釈(ワンセット理論)は誤りです。なぜなら、ベリーベストが司法書士に支払った引き直し計算データ作成及び訴状作成に対する対価が紹介料であるならば、この対価をベリーベストではなく依頼者が司法書士に支払ったとしても紹介料となってしまうからです。弁護士法72条が禁止する紹介料の支払いは、支払者が案件紹介を受けた弁護士であるか、依頼者であるかを問わないのです。しかし、司法書士が引き直し計算をして、訴状を作成することは、法律上司法書士に認められた業務であり、この業務に対して依頼者が支払った報酬が、のちに弁護士を紹介されたとしても紹介料を含むことにはならないでしょう。
弁護士会は、このように条解弁護士法記載の公式な法解釈を捻じ曲げ、またベリーベストの主張に反論することができないからこれを無視して、ベリーベストを違法に処分しました。そして、高裁はこの弁護士会による誤った法解釈を守るために、本件の争点を当事者が主張すらしていない事実認定の話にすり替えて(弁論主義違反)法解釈を回避し、かつ数々の論点について反論できないので無視をして(審理不尽)ベリーベストを敗訴させました。さらに、最高裁は憲法違反や弁論主義違反、審理不尽などの数々の高裁判決の重大な問題点を一切取り上げることなく三行半の判決を出したのです。
ベリーベストは弁護士会及び裁判所の手続きにおいて、以下の著名な実務家及び学者の適法意見を提出していますが、弁護士会も裁判所もこれらの意見書について完全に無視しました。無視されてしまっては、いくら権威ある学者・実務家の説得的な意見書であっても無力であり何の意味もありません。
とにかくベリーベストを負かすという結論を決めて、その結論を導くためには平気で争点を無視し、法解釈を捻じ曲げ、あるいは明らかに不合理で経験則に反する事実認定をします。これが日本の司法の現実なのです。
ところで、本件はアディーレ法律事務所によるスパイ行為に端を発しています。司法書士法人新宿事務所が大きく受任件数を伸ばしていたタイミングで、新宿事務所の140万円超え案件がベリーベストに流れていることを察知したアディーレが、新宿事務所とベリーベストにスパイを送り込みました。新宿事務所からは金員の移動の証拠を掴めなかったが、ベリーベストからは金員の移動の証拠が掴めたので、それが紹介料だと強弁して懲戒請求しました。弁護士会の綱紀委員会は守秘義務があるにもかかわらず、この懲戒請求の情報を弁護士会執行部に漏洩し、綱紀委員会で調査中であったにもかかわらず、執行部からの指示を受けた非弁提携対策本部が重ねてベリーベストの調査に乗り出し、市民相談窓口に寄せられた完済過払い事案を材料に、非弁防止会規を根拠として、ベリーベストに調査義務を課した調査を強いて、司法書士との業務委託契約書などを提出させ、その上で会立件しました。
しかし、綱紀委員会による秘密漏洩は違法だし、綱紀委員会で調査中の事案を会立件目的で重ねて非弁提携対策本部が調査義務を課して調査することも綱紀委員会の独立性を侵害し違法です。さらに非弁防止会規は、多重債務事件を対象としており、単なる債権回収事案である完済過払い事件では使えないので、調査の端緒も違法です。こうした一連の違法な手続による会立件ももちろん違法です。そして、そもそものきっかけとなるアディーレのスパイによる懲戒請求が不正競争防止法違反で刑事罰もあります。スパイ行為の尻馬に乗り、かつ違法な手続きを重ねた挙句の会立件なのです。とても法律家のやることとは思えません。
今般、東京弁護士会懲戒委員会は、アディーレによるスパイ行為は疑わしいとしながらも、スパイ行為に関与した者が呼び出しに応じないから証拠不十分だという理由で懲戒処分を見送りました。アディーレ側がなんらの反証活動すらできなかったにもかかわらずです。
スパイ行為に関与した者が呼び出しに応じないのは当たり前です。言い逃れできないレベルの証拠を集めて懲戒請求したのにこの有様ではどうしようもありません。
被害者がベリーベストだからスパイ行為がほぼ確実に疑われても処分しなくて良いのでしょうか。スパイ行為を認定してしまうと、弁護士会がアディーレのスパイ行為に加担して違法にベリーベストを懲戒処分したことになってしまって都合が悪いから、臭いものには蓋をして、アディーレのスパイ行為を不問にしてしまえば良いということなのでしょうか。正義感のかけらもありません。
弁護士ともあろう者が、ライバル事務所にスパイを送り込んで懲戒請求を仕掛けるなど前代未聞です。結果として新宿事務所は閉鎖に追い込まれアディーレの思惑は達成され、経済的な利益も莫大です。巨大法律事務所による前代未聞の犯罪行為を野放しにして良いはずがありません。
スパイ行為が認定されれば、年単位の業務停止が予想される事案でした。アディーレは命拾いしました。
もし過去に戻ってやり直せるとしても、私たちは同じ行動をします。当時、新宿事務所は簡易裁判所に提訴して勝訴した過払い請求事案について、被告貸金業者らから全件控訴されて代理権外しをされるという苦境に立たされていました。ベリーベストは新宿事務所の依頼者が不利益を受けないよう、控訴案件を引き継いで依頼者の過払金を確保しました。また、140万円超え案件もたくさんあるということで、これらの過払い請求権が消滅時効にかかることのないよう迅速に引き継ぎをして、依頼者の過払金の最大化に務めました。私たちベリーベストが引き継ぎをしなければ、大量の依頼者は過払金を消滅時効にかけたり、貸金業者に足元を見られて減額を余儀なくされるなどの不利益を受けていたに違いありません。弁護士会は、ベリーベストを処分しましたが、ではベリーベストがどうすべきだったのかについて、何ら適切な回答を持ち合わせていませんでした。私たちは、この時の引き継ぎ行為が間違っていたとは今でも考えていません。
ところで、当時の新宿事務所は大量の過払金を回収する過程において、かなり大きな減額和解をしたりすることがあり、業界内での評判は芳しくありませんでした。弁護士会も新宿事務所を目の敵にし、新宿事務所と手を組んだベリーベストはけしからんということで処分しました。しかし、新宿事務所の評判と、弁護士による引き継ぎが必要な依頼者を救済することは全く別問題です。また、ベリーベストが控訴案件に関与することになって以降は、ベリーベストの弁護士が新宿事務所の業務改善を手伝うことになりました。新宿事務所は仮に控訴されてもベリーベストがバックアップしてくれるという安心感から強気な示談交渉ができるようになり、それまで過払金を元本の6割とか7割で和解していたものを元本の9割以上で和解する体制にまで改善しました。
私たちベリーベストは一貫して依頼者のために最善を尽くしてきました。正しいことをしてきたと誇りに思います。
このおかしな判断が確定してしまったことで、今後は以下のような弊害が生まれることになります。弁護士・司法書士の先生方におかれてはくれぐれもご注意ください。
(事案1。本件と同じ)
A司法書士が引き直し計算と訴状作成し、B弁護士が提訴して過払い金を回収した事案で、B弁護士がA司法書士にA司法書士の報酬として20万円を支払った事案
A司法書士→弁護士法72条後段違反
B弁護士→弁護士法27条、弁護士職務基本規程11条、13条1項違反
(事案2。たとえば被告消費者金融の本店所在地が京都であるなど)
A弁護士が引き直し計算と訴状作成し、B弁護士が提訴して過払い金を回収した事案で、B弁護士がA弁護士に弁護士報酬として20万円を支払った事案
A弁護士→弁護士職務基本規程13条2項違反
B弁護士→弁護士職務基本規程13条1項違反
(事案3)
A司法書士が引き直し計算と訴状作成をし、B弁護士が提訴して過払い金を回収した事案で、依頼者がA司法書士にA司法書士の報酬として20万円を支払った事案
A司法書士→弁護士法72条後段違反
B弁護士→弁護士法27条、弁護士職務基本規程11条違反
(事案4)
A弁護士が引き直し計算と訴状作成し、B弁護士が提訴して過払い金を回収した事案で、依頼者がA弁護士に弁護士報酬として20万円を支払った事案
A弁護士→弁護士職務基本規程13条2項違反
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なお、上記はいずれも過払金請求事案の引き継ぎのケースですが、この理屈は過払いに限られません。
たとえば、A司法書士がクライアントから株主総会の指導の依頼を受け、これをB弁護士に紹介したが、司法書士が対応可能な株主総会の議事録作成と役員登記の業務をB弁護士から依頼され、その報酬として20万円を受領した場合も違法です(事例1)。報酬を弁護士からではなく依頼者から受領した場合も同様です(事例3)。
弁護士同士の通常案件の引継ぎ事案であっても同じです。前任者たるA弁護士が後任者たらB弁護士に案件を中途で引き継ぎ、B弁護士がA弁護士の業務報酬を支払えばそれは全て違法な紹介料になってしまいます(事例2)。そして、これは依頼者がA弁護士に報酬を支払っていた場合でもダメなのです(事例4)。
以上