非弁提携を理由とする懲戒請求に対する見解

弁護士法人ベリーベスト法律事務所に対する
非弁提携を理由とした懲戒請求事件について

第1 ベリーベストが非弁提携を疑われている事案の概要

「弁護士法人べリーベスト法律事務所」(以下「ベリーベスト」といいます)は、司法書士法人Aが受任した過払い金返還請求事件で、利息引直し計算の結果、訴額140万円(認定司法書士の代理権の範囲)を超える過払い金が発生した場合、依頼者の意向により、その過払い金返還請求事件を司法書士法人Aから引き継いでいました※1 ベリーベストは、司法書士法人Aから引き継いだ過払い金返還請求事件に関して、司法書士法人Aが訴額140万円を超える過払い金が発生することが判明するまでに行った業務の成果物(貸金業者から入手した取引履歴、司法書士法人Aが作成した利息引直し計算書等)の引き継ぎを受けていました※2(①)。 また、ベリーベストは、引き継ぎを受けた過払い金返還請求事件に関して、過払い金返還請求訴訟の訴状等の裁判書類一式(訴状、証拠説明書、証拠書類等)の作成を司法書士法人Aに委託していました※3(②)。 ベリーベストは、司法書士法人Aに対して、上記①及び②の業務の対価として、1件あたり、19万8000円の業務委託料を支払っていました。

  • ※1司法書士には140万円以下の案件を代理する権限が認められていますが、それを超える案件については代理権限がありません。過払い金返還請求事件は、相談時点ではいくらの過払い金が発生するかは確定できず、貸金業者から取引履歴を開示してもらい、利息引き直し計算を行ってはじめて過払い金額が確定します。
  • ※2過払い金額が140万円を超えると判明するまでの相談業務や調査業務については、司法書士も適法に行うことができ、これについて報酬も請求できます(司法書士法3条1項6号7号)。
  • ※3司法書士は、140万円を超える案件についても、訴状等の裁判書類の作成を適法に行うことができ、これについて報酬も請求できます(司法書士法3条1項4号)。

第2 ベリーベストに対する非弁提携を理由とした懲戒請求の内容

上記の19万8000円は事件紹介の対価であり、その支払いが弁護士法27条と弁護士職務基本規程13条1項に違反するのではないか。

弁護士法27条(非弁護士との提携の禁止)
弁護士は、第七十二条乃至第七十四条の規定に違反する者から事件の周旋を受け、又はこれらの者に自己の名義を利用させてはならない。

弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。

弁護士職務基本規程13条1項(依頼者紹介の対価)
弁護士は、依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払ってはならない。

第3 ベリーベストが司法書士法人Aより引継ぎを受けるに至った経緯

司法書士法人Aは、2008年に設立され、債務整理・過払い金返還請求事件を中心に事業を拡大し、2014年には、取扱件数において、弁護士法人アディーレ法律事務所を凌ぐ規模に成長しました。これに伴い、司法書士法人Aが受任したが、引き直し計算の結果、140万円を超えるために、司法書士が代理できない案件も増加しました。ベリーベストに依頼があった2014年12月末の時点で、司法書士法人Aは、既に5つの法律事務所の弁護士に代理権超え事件を引き継いでいました。しかし、件数が多く、これらの法律事務所の処理能力の限界を超えたことから、当時、債務整理・過払い金返還請求事件を取扱う法律事務所の中で、弁護士法人アディーレ法律事務所に次いで規模が大きかったベリーベストに対して、司法書士法人Aから、引継ぎの打診がありました。司法書士法人Aの依頼者の中には、過払い金返還請求権の消滅時効が目前に迫っている方も多く、事件を引き継ぐ弁護士がいなければ、依頼者に多額の損害が発生する危険がありました。 ベリーベストも、当時、過払い金返還請求事件以外にも多数の案件を抱えてフル稼働しており、それらに加えて、司法書士法人Aから多数の過払い金返還請求事件を引き継げるほどの処理能力はありませんでした。しかし、2015年1月より、新人弁護士が20名程度加入することや、離婚や交通事故等の民事事件など、他の案件の依頼を控えることにより、所属弁護士及び法律事務職員のマンパワーをなんとか捻出して、司法書士法人Aから過払い金返還請求事件を引き継げる体制を整えたのでした。もっとも、改めてはじめから依頼者の取引履歴を再度調査して、引き直し計算をやり直すことは二度手間になるし、2~3か月程度余計な時間を要することから、司法書士法人Aが作成した引き直し計算書などの調査結果を引き継ぐこととし、また、司法書士は、裁判書類の作成権限を有することから、事情を良く知っている司法書士法人Aに訴状等の書類作成まで依頼※4したうえで、事件を引き継ぐこととしました。これにより、ベリーベストが、当時多数の案件を抱えて多忙であり、処理能力が足りないという問題点をクリアすることができました。司法書士法により事件を辞任せざるを得ない多数の依頼者を抱えた司法書士法人Aからの依頼者の引継ぎの依頼に応えることは、弁護士法人大手として社会的な責務を果たすことであると考え、依頼者を見捨てるわけにいかないという使命感をもって、引継ぎを受けることとしました。 なお、ベリーベストが、司法書士法人Aから、140万円を超える過払い金返還請求事件の引継ぎを受けていた期間は、司法書士法人Aが2008年に開業してから2018年に解散するまでの期間のうち、2015年から2017年の約2年間に限られます。また、司法書士法人Aの代理権超え案件のうち、ベリーベストが引継いでいた件数は、全体の3割程度でした。

  • ※4140万円を超える過払い金返還請求事件は、取引期間が優に10年を超えるような案件がほとんどであり、過払い利息も優に100万円を超えることから、過払い金の元利金満額を回収しようとする場合には、原則として訴訟を提起する必要があります。

第4 非弁提携を理由とする懲戒請求に対するベリーベストの見解

  • 1 はじめに

    本件は、司法書士から弁護士への代理権超え案件の引継ぎのあり方という根本的な問題をはらみます。この問題は、何もベリーベストと司法書士法人Aだけの問題ではなく、司法書士から弁護士への代理権超え案件の引継ぎに際し、弁護士がそれまでに司法書士が行った業務成果物を引き継いだり司法書士に一部の業務を委託したりする場合に、いかに適正な対価を合意して支払えばよいのかという一般的な問題です。この問題については、日本弁護士連合会(日弁連)と日本司法書士会連合会(日司連)との間で、司法書士から弁護士への代理権超え案件の引継ぎをどのように取り扱うべきかについて議論がなされており、未だに決着を見ていません。司法書士法により司法書士が訴額140万円以下の事件しか取り扱えないことになっている以上、現実問題として、訴額140万円を超える過払い金返還請求事件については弁護士への引継ぎが必要となります。依頼者のため迅速に、かつ経済的負担が少ないように事件を処理するには、案件を引き継ぐ弁護士がそれまでに司法書士が行った調査業務の成果物を利用することが有益であり、また、案件を引き継ぐ弁護士として、司法書士から(司法書士が適法に行える)裁判書類作成業務の協力を得た方が迅速かつ効率的に事件を処理することができます。この場合、実際問題として、司法書士は、自身が引継ぎまでに行った調査業務や弁護士から受託する裁判書類作成業務について当然に報酬を確保しようとします。その報酬が過大であれば紹介料の実質を含むことになるのでしょうが、逆にこの報酬が適正な形で確保されなければ、司法書士は弁護士に案件を引き継がずに、依頼者の本人訴訟支援をしていくことになります。しかし、本人訴訟支援の場合、依頼者は地方裁判所に出廷して自ら訴訟活動をしなければならないので負担が増しますし、一般的に言って、弁護士が代理人になる場合と比較すると依頼者の権利擁護が不十分になりがちです。依頼者の利益を考えれば弁護士に事件が引き継がれる方が良いことは明らかです。 私たちは、このような具体的かつ現実的な問題に直面し、いかにすれば依頼者にとって不利益にならず、依頼者を困惑させず、スムーズな形で弁護士に引き継げるのかを法的な問題とともに十分検討しました。そして、司法書士がそれまでに行った業務の成果物を引き継いで、かつ、事情に詳しい司法書士に裁判書類まで作成してもらい、それに対する適正な司法書士報酬を業務委託料として支払うことにしました。これは、実質的には、過払金回収業務の前半部分(債権調査業務と訴状等の作成まで)を司法書士が担当し、後半部分(裁判への出廷とその後の代理人業務)を弁護士が担当し、それぞれの業務に応じて合理的な基準により報酬を分配したものです。ベリーベストは、債務整理を取り扱う弁護士法人の中では、当時、弁護士法人アディーレ法律事務所に次ぐ規模の法人でした。司法書士法人Aは、ベリーベストが引継ぎを開始した当時、おそらく全国で一番多くの債務整理事件を取り扱っていた司法書士法人でした。司法書士法人Aからベリーベストに代理権超え案件の引継ぎの依頼があったのは必然的な流れだったと思います。ベリーベスト程度の規模の弁護士法人になれば、当然、社会的な責任があります。司法書士法により事件を辞任せざるを得ない多数の依頼者を抱えた司法書士法人からの依頼者の引継ぎの依頼に応えることは、ベリーベストとして社会的な責務を果たすことであるとも考えました。厖大な数の過払い金返還請求事件を時効にかけず、正確かつスピード感をもって解決するためには、一律処理の方法が求められます。現実問題として、上記①及び②の業務を司法書士法人Aに委託することによってしか、目の前の依頼者を救える方法はありませんでした。そうしなければ、多くの依頼者が本人訴訟を強いられるか、過払金の請求自体を断念することになっていたはずです。 ベリーベストは、司法書士法人Aが行なった業務に対する適正な司法書士報酬を支払っていたのであり、決して紹介料を支払っていたのではありません。ベリーベストが司法書士法人Aに支払った1件当たり19万8000円には、案件紹介の対価など含まれていません。本件取引を実施するに当たり、ベリーベストは、事前に弁護士法72条後段、27条前段及び弁護士職務基本規程13条1項との関係を精査しましたし、1件当たり19万8000円という金額の決定に当たっても、司法書士報酬の相場等を検討したうえで適正であると判断しました。ベリーベストは、司法書士法人Aとの取引に関して完全に合法であるとの認識のもとに実施しており、何らやましい点はありません。しかし、東京弁護士会は、ベリーベストの主張に耳を傾けることはなく、また、司法書士の代理権を超えた案件の弁護士へ引継ぎをどのように行うべきかという根本的な問題からも目を逸らし、業務委託料の支払が案件紹介に連動しているという側面を捉えて(このことは業務成果物の引継ぎと裁判書類作成業務の委託が案件ごとに行われるのだから当然です。)、安易に有償周旋であるとし、実体のある業務委託料の支払を紹介料のカモフラージュであるとか、紹介料を含むものであるなどと認定をして、会立件を行い、さらに東京弁護士会綱紀委員会は懲戒審査相当の議決をしました。 本件は、いわゆる不祥事事案ではありません。現実に、司法書士から弁護士への案件の引継ぎが発生しており、日弁連と日司連との間で引継ぎのルールもできていない状況にもかかわらず、ベリーベストの行為を懲戒手続によって取り締まるべき必要などないと考えます。もしベリーベストに対する会立件が、弁護士法27条前段や弁護士職務基本規程13条1項をいわば「金科玉条」や「錦の御旗」にし、これらの条文を利用して、業界で急成長していたベリーベストを懲らしめてやろうという意図があるのだとすれば、公正適正に運用されるべき弁護士懲戒制度を不当な形で行使し、弁護士自治の破壊につながりかねないもので極めて問題だと思います。

  • 2 懲戒事由にあたらない理由について

    ベリーベストの行為は、弁護士法違反も弁護士職務基本規程違反もなく、懲戒されることはないと考えます。理由は以下のとおりです。

    • (1)紹介との間に対価関係がないこと

      ベリーベストが司法書士法人Aに支払った19万8000円は、上記①及び②の業務委託の対価であり、事件紹介の対価ではありません。日弁連調査室編著「条解弁護士法」によると、弁護士法72条の「報酬」は、処罰範囲が無限定とならないように、事件紹介(周旋)との間に対価関係があることを要するとしています。弁護士法72条の違反は刑事罰がありますから、罪刑法定主義が妥当し、「報酬」の意義を拡大解釈することはできません。

    • (2)委託した業務は司法書士の本来的業務であること

      訴額が140万円を超えることが判明するまでの法律相談や調査業務(上記①の業務)については、司法書士が適法に行うことができる業務であり、訴状等の裁判書類作成業務(上記②の業務)も司法書士法3条1項4号に定められた司法書士の本来業務です。したがって、司法書士がこれらの業務について報酬を受け取ることは適法であり、弁護士法72条違反とはなりません。

    • (3)業務委託を行う必要性

      司法書士法人Aから上記①の引継ぎを受けない場合には、ベリーベストが改めて貸金業者から取引履歴を取り寄せて利息引き直し計算をしなければなりませんが、そのようなことは二度手間となって不経済ですし、事案の解決が2~3か月程度も遅れてしまいます。過払い金返還請求を消滅時効にかけてしまう恐れもあります。依頼者にとっても、司法書士法人Aに対して、調査費用の報酬を支払い、さらに弁護士にも報酬を支払うこととなると経済的にも二重の負担が生じてしまいます。また、140万円を超える過払い金返還請求事件は、取引期間が優に10年を超えるような長期取引の案件がほとんどであり、過払い利息も優に100万円を超えることから、過払い金の元利金満額を回収しようとする場合には、原則として訴訟を提起する必要があるのですが、事情を良く知っている司法書士法人Aに上記②の業務を委託して訴状等裁判書類の準備をしたほうが、迅速かつ効率的に訴訟の提起ができます。司法書士法人Aに上記②の業務を委託することは、速やかに訴訟提起することを示して貸金業者に強気の回収交渉を行ない、また、消滅時効の完成が間近の案件について速やかに訴訟ができる万全の体制を敷くためにも意味がありました。

    • (4)19万8000円という対価が相当であること

      司法書士法人Aから引継ぐ案件は、全て140万円を超えていて、取引期間が長期間に及んでいるため、上記①の業務を完了するまでには平均して5時間以上司法書士が稼働する必要があり、タイムチャージに換算した場合、上記①の報酬が10万円程度であれば相当な金額といえます。また、上記②の業務について、日本司法書士会連合会が公表しているアンケートでの、司法書士の訴状作成費用は、関東地区平均値:7万9094円(請負代金請求事件)、9万6332円(建物明渡請求事件)、関東地区の高額者10%の平均値:23万円(請負代金請求事件)、30万円(建物明渡請求事件)とされています。過払い金返還請求訴訟は、貸付金利息・遅延損害金の取扱い、取引履歴の開示請求、取引の分断と一連計算、債権譲渡・事業譲渡がなされている場合の過払い金返還債務の承継、過払い金利息の取扱い、過払い金返還請求権の消滅時効、私的和解・調停合意・民事調停法17条の決定の無効、クレジットカードが絡む取引に関する特有の論点、最高裁判例以後のみなし弁済・遅延損害金の取扱いなど、多様な論点がありうる専門的訴訟であり、論点によって作成すべき訴状の内容も変わるので、上記②の報酬を10万円程度としても司法書士の報酬として相当な金額です。したがって、19万8000円は明らかに相当な金額です。なお、司法書士法人Aは訴状の作成のみならず、証拠説明書の作成、証拠の整理、附属書類の準備も行っていました。 また、仮に過払い金返還請求事件の訴額が140万円だった場合、司法書士法人Aは過払い金回収業務の代理人となれます。140万円満額を回収した場合に、司法書士が受け取れる報酬は、日本司法書士会連合会が定めた債務整理事件における報酬に関する指針の上限で、定額報酬5万円と回収額の20%となり、5万円+28万円=33万円(訴訟で回収した場合は、5万円+140万円×25%=40万円)となります。140万円を超えて司法書士の代理権がない案件について、司法書士が、調査と訴状作成まで対応した場合の報酬が、上記の33万円を超えるのであれば、不相当に高額であることは間違いありませんが、19万8000円という金額は、相当な範囲に収まっています。 なお、上記指針5条は、定額報酬の上限を「債権者一人当たり5万円」と定めていますが、これは、任意整理事件及び過払い金返還請求事件の調査費用を債権者一人当たり5万円までしか認めていないという趣旨ではなく、文面を素直に読めば、この定額報酬が任意整理事件及び過払い金返還請求事件の着手金を意味することは明らかです。したがって、調査費用として司法書士法人Aが途中で辞任するに際して、それまでに行った業務に応じて、上記①の業務につき10万円程度とすることは同指針に違反しません。なお、同指針は、そもそも140万円以内の司法書士の代理権の範囲内の報酬について定めたものであり、代理権を超えてしまった本件について直接的に定めたものではありませんし、また、同指針には、そもそも法的拘束力がありません。 現実問題としても、司法書士法人Aは、この業務を行なうにあたり、司法書士・事務員の人件費だけでなく、業務管理システムの開発及び保守運用にかかる費用、事務所賃料・水道光熱費、さらに、少なくない広告費等のコストをかけており、19万8000円の報酬を受領できなければ、司法書士としての本来的業務をこなしているにもかかわらず、利益を出せなくなる恐れがあります。

    • (5)司法書士に簡裁代理権を認めたことから必然的に生じる状況であること

      本件のような、弁護士への案件の引き継ぎは、司法書士に140万円以内の案件に限って代理権を与えたことの当然の帰結として生じる事態であり、これを認めないことは依頼者保護に欠けます。司法書士倫理33条は、「司法書士は、受任した事件の処理を継続することができなくなった場合には、 依頼者が損害を被ることのないように、事案に応じた適切な処置をとらなければならない。」と規定しており、司法書士は代理権がないからといって無責任に辞任することはできず、代理権を有するしかるべき弁護士に事件を引き継ぐことが推奨されます。しかし、2002年改正により司法書士の簡裁代理権が認められた段階でガイドラインが必要なことは明らかだったにもかかわらず、日本弁護士連合会と日本司法書士会連合会との間で引継ぎに関するガイドラインの制定は進んでいません。本件は現実に困っている依頼者がいる中で、ベリーベストと司法書士法人Aが適法性を検討して行ったものです。このような事案を「品位を失うべき非行」として懲戒するのは相当ではありません。

    • (6)弁護士法72条の趣旨に何ら反していないこと

      弁護士法72条が報酬を受けることを目的とする弁護士の紹介(周旋)を禁止した趣旨は、何らの資格もなく規律に服さない者が介入することで、当事者の利益が害されることにあります(最判昭和46年7月14日)。本件では、紹介(周旋)を行うのは訴額140万円までは弁護士同等の権限を有する司法書士です。たとえ、司法書士の代理権を超える案件であっても、代理権を超えるからこそ、引継ぎが必要となるわけであり、これまで問題とされていた、いわゆる事件屋やブローカーの類による非弁提携事案とは全く性質を異にします。本件は、司法制度改革の一環として司法書士に限定的な訴訟代理権が付与されたことを背景として生じた問題であって、弁護士法72条が、認定司法書士制度の導入にもかかわらず、それに配慮することなく、単に弁護士と非弁護士を区別する規定のままなのは、司法制度改革における改正漏れ・立法ミスとすら言えます。認定司法書士をいわゆる事件屋と同視して、刑事罰をもって、弁護士への法律事件の紹介を規制しようとすることは、弁護士と司法書士が協働して業務に当たることを妨げ、司法制度改革の趣旨に逆行し、依頼者のためにもなりません。少なくとも事件引継ぎに関するガイドラインの制定を待って、ガイドラインに違反したもののみを懲戒とすべきであり、ガイドラインがない中で、関係法令を精査して、法令に違反しないと考えて行なったベリーベストの行為を懲戒の対象とすることは行き過ぎです。また、ベリーベストは司法書士法人Aに支払う業務委託料を1円も依頼者に転嫁していません。ベリーベストが直接集客した案件も、司法書士法人Aから紹介された案件も報酬の計算方法は同一ですから、同条の趣旨に反しません。

    • (7)弁護士職務基本規程12条の「正当な理由」があること

      弁護士職務基本規程第12条は弁護士が弁護士でない者との間で報酬を分配することを原則として制限していますが、「正当な理由がある場合」は許されるとしています。「正当な理由」について、弁護士職務基本規程についての日弁連の解説は、「隣接専門職との協働によるワンストップ・サービスの提供の場合においても、分配について正当な理由があるとされることがあり得る。後者については、合理的な分配基準が工夫されなければならないが、個別の案件について協働した場合(たとえば、相続事件につき、弁護士が遺産分割協議手続を、司法書士が相続登記を、税理士が相続税申告をそれぞれ分担処理したような場合)には、合理的な基準に基づく弁護士報酬の分配が可能であると考えられる。」としています。本件についても、司法書士法人と弁護士法人が連携して、訴額140万円超えが判明するまでの調査業務と訴状等作成業務までは司法書士法人が、その後の準備書面作成・和解交渉・出廷業務は弁護士法人が分担して、依頼者に対してワンストップ・サービスを提供したもので、「正当な理由」があると解されます。 ベリーベストが司法書士法人Aから引継ぐ140万円超えの過払い金返還請求案件の回収額の平均は1件あたり350万円を超えており、弁護士報酬の額も約90万円程度になりました。そこから、上記①及び②の業務の対価として、ベリーベストは、司法書士法人Aに対して、19万8000円の司法書士報酬を支払うことになります。訴額140万円超えが判明するまでの調査業務と訴状等作成業務まで(上記①及び②の業務)の報酬として、司法書士法人が約20万円を受け取り、その後の準備書面作成・和解交渉・出廷業務・過払い金の回収業務までの報酬として、弁護士法人が約70万円を受け取るということになります。調査及び書類作成業務を代理する司法書士の報酬と、代理人として訴訟活動して過払い金を回収する業務を代理する弁護士の報酬として、バランスがとれており、合理的な基準に基づく報酬分配だといえます。

    • (8)契約自由の原則が当てはまること

      そもそも業務委託の報酬額をいくらにするのかは、基本的には契約当事者の事業上の判断であり、業務委託の実態がないとか、明らかに業務と報酬の均衡が取れていないといった事情がない限り、基本的には合理性があると考えざるを得ないのが民法上の大原則です。もともと司法書士法人Aは、過払い金の訴額140万円を超えることが判明した場合に、それまでの業務と依頼者本人のための訴状一式の作成(単独原告用)を合計19万8000円で精算することを依頼者との間で合意していました。これは依頼者と司法書士法人Aとの間で合意された適正な司法書士報酬の支払いに他なりません。ベリーベストは、これらに加えて共同原告用の訴状等一式の作成も依頼していたのであり、それにもかかわらず対価を19万8000円に据え置いたわけですから、ベリーベストが司法書士法人Aに支払った19万8000円が適正な司法書士報酬であることは明らかです。

    • (9)現実問題として業務委託をしなければ処理できなかったこと

      司法書士法人Aからの引き継ぎ案件は、当初の想定よりも多数であり、ベリーベストが、これに対応する人員を短期間に雇用して教育することは困難でした。また、司法書士法人Aからの案件の引き継ぎがいつなくなるかが分からない状況で、ベリーベストが多数の事務職員を雇用することはリスク伴いました。したがって、現実問題として、上記①及び②の業務を司法書士法人Aに委託しなければ、事件処理はできませんでした。本件の19万8000円の支払いは、現実に上記①及び②の業務を司法書士法人Aに委託する必要があったからこそ、その適正な対価として支払われたものであり、ベリーベストに紹介料を支払おうという意図・目的などありません。

    • (10)類似ケースとの整合性

      140万円を超えることが判明した場合に、司法書士が依頼者からそれまでの調査と訴状等作成の対価として19万8000円を受領することは適法であり、これを行っても何ら問題はありません。本件では、司法書士が直接依頼者から報酬を受領するのではなく、弁護士法人から受領しているという違いがあるにすぎません。実質が何ら異ならないにもかかわらず、本件が罰せられるとすればあまりにアンバランスです。ちなみに、本件の業務委託を開始する段階で、司法書士法人Aが直接依頼者から報酬を受領するという方法も検討をしましたが、①過払い金が未回収の段階で司法書士法人Aが依頼者から費用を領収することは現実的にできないことや、②過払い金が未回収の段階で依頼者に負担が生じないようにすると、案件を引き継ぐ弁護士が依頼者に代わって司法書士法人に司法書士報酬を立替払いし、後日過払い金が回収できた段階でその分を清算しないことにするという技巧的で依頼者に分かりにくい手法によることとなり、また、そのような手法は弁護士職務基本規程25条に抵触するおそれもあったこと、③19万8000円というのは、結局のところ過払い金返還請求事件に関する司法書士と弁護士との間の報酬分配に過ぎず、依頼者にとってほとんど利害関係がないこと、等の理由から、本件のような方法をとることとしたという経緯があります。 また、弁護士Aが訴状作成までを行い、弁護士Bが出廷業務を行った場合に、弁護士Bが依頼者から受領した報酬の一部を弁護士Aに支払うのは適法です。本件においては、弁護士Aが司法書士法人Aになっただけであり、司法書士法人も140万円越えであることが判明するまでの相談・調査業務及び訴状等の作成業務ができることから、これが禁止されることはあまりにアンバランスです。

    • (11)司法書士会が違反はないと判断したこと

      同一の事案について、司法書士法人Aも東京司法書士会への懲戒請求を申し立てられましたが、東京司法書士会の綱紀調査委員会は、違反事実は認められないと判断しました。

    • (12)解釈における見解の違いは「非行」ではないこと

      法の解釈のあり方に関して、仮にベリーベストに非弁提携の解釈の誤りがあるとしても、解釈における見解の違いは「非行」ではありません。また、ベリーベストは、非弁提携に該当しないか、紹介料の支払いに該当しないかについて、関係法令の法的調査や、司法書士報酬の相場の調査をし、かつ、事前に尊敬する弁護士に相談するなど、慎重に検討したうえで、合理的な選択をしたので、「非行」には該当しません。国家賠償に関する判例ですが、「ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立して疑義を生じ、拠るべき明確な判例、学説がなく、実務上の取扱いも分かれていて、そのいずれについても一応の論拠が認められる場合に、公務員がその一方の解釈に立脚して公務を執行したときは、後にその執行が違法と判断されたからといって、直ちに当該公務員に過失があったものとすることはできない」とされており、合理的な法解釈をとった場合にはあとから過失ありとすることはできないとされています。

第5 その他の事情

ベリーベストを懲戒請求した人物は、他事務所からベリーベストに法律事務職員として送り込まれた産業スパイであることが判明しており、スパイを送り込んできた法律事務所の元代表弁護士と、同事務所の弁護士法人に対して、別途、懲戒請求を申し立てました。

以上